コラム・インタビュー

Translational and Regulatory Sciences

TRSに掲載された国内向け研究論文(日本語論文)について

AMED感染症創薬産学官連絡会 | AMED Public and Private Partnerships for Infectious Diseases R&D

コラム

経鼻薬物投与システム開発 = トランスレーショナルリサーチ事業

 トランスレーショナルリサーチは、主にアカデミアに存在する技術を実業へと橋渡しするための研究開発と定義されます。株式会社新日本科学(以下、当社)は20年程前より、アカデミアの研究成果を発展させ、自ら強固な知財を創造して事業をおこす“トランスレーショナルリサーチ事業(TR事業)”へのパラダイムシフトに挑戦し続けています。当社社長の永田良一・医学博士、TRカンパニーヴァイスプレジデントの治田俊志・薬学博士らは、1998 年から経鼻投与の技術研究を開始し、臨床試験実績(米国)を独自に重ねながら、種々の薬物に応用可能な汎用性のある経鼻投与技術と最適製剤のコンビネーションの確立を目指してまいりました。毛細血管網が発達している鼻粘膜は薬物をよく吸収し、即効性が必要な場合や薬を飲み込むのが難しい患者に有用である、というコンセプトを確認しております。(図1)

図1

 経鼻投与基盤技術は、鼻腔内に粉末薬剤を噴霧して、鼻粘膜から薬剤を安全に効率よく吸収させる製剤技術と、小型で携帯・操作が容易なデバイス技術から構成されるコンビネーションシステムです。低分子薬やペプチド薬をその化学的性状に合わせて製剤化し、当社経鼻システムを使用すると、既存の点鼻液に比べて、薬剤吸収が飛躍的に増大します。製剤はセルロースを主体とする粉末状で、鼻粘膜に付着・滞留することで、有効成分を効率よく体内に吸収させます。簡単な操作で高い噴射性を持つデバイスが、鼻内標的部位への薬剤到達を裏付けるのです。加えて当社では、鼻の構造がネズミやイヌに比べヒトに近いサルを用いて研究できる大きな強みがあります。また、特異的な抗原を経鼻投与すると、呼吸器感染症の予防に重要とされる粘膜抗体(sIgA抗体)産生が高まることに着目し、インフルエンザ経鼻ワクチン(室温保管)の研究開発も進めております。(図2)

図2

 さて本技術の幅広い事業化に向け、さらに新たな夢を語れる部分はあるのでしょうか。中枢神経系疾患のアンメットメディカルニーズは高く、中枢神経作動薬は製薬企業での重点開発領域です。私共は、血液-脳関門(BBB)により中枢に届かない治療薬を、嗅部を介した脳への薬物送達- Nose to Brain -技術研究に注力しております。進化したイメージング技術を用い、薬物の到達部位をコントロールして効率的に分布させることができれば、これまで難治とされてきた中枢系の疾患 – アルツハイマー病、パーキンソン病、変性疾患など – の治療に福音となると期待されます。実際に、注射では脳移行性が認められなかった薬物で、当社技術で高い移行を確認できた事例を報告しております。

 科学技術のビジネスへのトランスレーションには、まず成功事例を出すことが求められます。Satsuma Pharmaceuticals Inc. は、本技術によるジヒドロエルゴタミン経鼻剤の開発会社として、2016年に米国に設立されました。適応症は、偏頭痛です。1200万米ドルの初期開発資金調達を遂げ、臨床第Ⅰ相試験では速やかで安定した高吸収を確認しました。米国FDAとの会議で、承認申請に必要な第Ⅲ相試験の主要項目について合意し、本年8月より試験を開始しております。その間さらに6200万米ドルの開発資金を調達し、米国NASDAQ市場への上場申請がなされております。私共は、Satsuma社の事例を踏み台に、国内外で同様の事業化を進め、さらにはNose to Brain技術を開花させるべくトランスレーショナルリサーチを展開してまいります。

令和元年9月

株式会社新日本科学 TRカンパニー プレジデント
金指 秀一

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